2002.10.17
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その山のなだらかな坂を幾日もかけて降りて行くと、行き止まりの湿原に辿り着く。 そこは遭難の名所で、なだらかな坂にだまされた人々が集まってくる所。再び坂を戻るのは、体力に自信のある山人でも難しい。 湿原には、まるで砂漠のオアシスのような小さな泉がある。 迷いこんだ旅人は、そこで喉をうるおし、なだらかな坂を見上げる。 もう何年も前、私はそこで、ひとりの女の子と再会した。彼女は力尽きようとしていた。 泉には、以前、遭難した旅人の日記や手帳があちこちに落ちていた。 そして彼女は最後の日記を残した。 最後の日記は、それ以後、泉に辿り着いた旅人に読み継がれた。 何人かは、最後の日記を読んだ後、再び坂を目指した。何人かは、そこで力尽きた。 最後の日記は、そんなふうにして、いまもその泉のほとりにある。
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