私は一日中、砂浜に立っていた。そして、人々の目を盗んでは地面を堀り続けた。時折、年老いた女性が私に近づき、自分の墓を自分で掘る事はとてもいい事だと私に告げた。私の墓はもうすでに、夫によって用意されていると、その女性は言った。
私は、小さい頃から、母親というものを憎んでいた。それは、誰でもない私自身の母親のことだったのだけれど、今にして思えば、母親という個人を憎んでいたのではなく、母親という立場そのものを憎んでいたのかもしれない。その女性は、私の存在など無視して、そう波に向かって語り始めた。
私の母親に対する恐怖、それは母親という立場そのものの恐怖だったのだ。そんな事に気づかせてくれただけでも、私は世界の終わりに感謝している。世界の終わりが来なければ、私は私の終わりまで、気づかずにいただろう。そう、語った後、年老いた女性は、そう思いませんことと、優しい笑顔を私に向けた。
私はまだ、母親ではないですからと、地面を掘る手を止め小さく語れば、母親になろうとしてなる人はめったにいませんよ。多くの人は、母親にされるのです。子供がいようといまいと、関係なくね。と、女性はもう 一つの笑顔を私に向けた。
母親になろうとしてなる人がいるとすれば、それはきっと、とても不幸な人です。ところで、その穴はどこへ通じているのですかと、その女性は、唐突に話題を変えた。
母親のいない国に通じてはいないのですかと、その女性は言った。もしそうならば、もしそうならば、私はあなたを許すことが出来ない。
「助けて、殺される」 |
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