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2007年05月 アーカイブ

2007年05月09日

稽古初日。

そんなわけで、鴻上です。お元気ですか?鴻上は、ロンドンの空の下、一人でなんとか生きております。今日、5月8日は、いよいよ、ロンドン版『トランス』の稽古初日でした。
初日にすることは、じつは、日本と変わりません。全スタッフとキャストが集まり、自己紹介をお互いにして、演出家から、作品の大枠の説明を受けて、装置が決まっていれば、その説明をする。
んで、そのあと、「ま、とりあえず、読んでみましょう」と軽く言って、台本を読む。
んで、稽古をはやめにとって(終わらせて)とっとと飲み会に行く。
違いがあるとすれば、飲み会のパブにおつまみがほとんどないので、安上がりなこと!
一応、全額、おいらのおごりなんだけど、これがもう、リーズナブル!リーズナブル!

で、初日の読みあわせは、とても幸福な時間でした。三人とも、うまい!日本で言う、二週間目の真ん中ぐらいの水準で、いきなり始まるのです。たいしたもんです。もちろん、イギリスの俳優が日本に比べてうまいわけではなく、うまい俳優さんに集まってもらったということです。うまさは、国境を超えるんだなあと納得。
てなわけで、今週は、金曜までケイコです。
面白いトランスになると思います。ワクワクもんですわ。

2007年05月10日

2日目。

そんなわけで、二日目も無事に終わりました。
こんなにサクサク進んでいいのかというぐらい、順調に行っています。

自分で言うのもなんですが、『トランス』は、日本人にも難しいのに、
それをイギリス人俳優とスタッフに分かってもらうのは、これは大変だと覚悟していました。
でも、今の所は、なんとか、納得してくれています。

今日は、(『トランス』を知っている人なら分かると思いますが)冒頭、礼子が白衣を取るのですが、マサ役(イギリス人に分かりやすいように、雅人はマサに変えました。サンゾウ、レイコはそのままです)のスティーブが「じゃあ、僕が白衣を取ったら、どんなストーリーになっていたんだい?」と聞くので、「その場合はね」と、マサ・バージョンを説明しました。
ついでに、「サンゾウが取ったらどうなるの?」とサンゾウ役のラシャンが楽しそうに聞くので、
これこれこうなると説明しました。

オーディションで出会ったのですが、三人とも、これが、イメージぴったりというぐらい、
マサとレイコとサンゾウにあっています。マサ役のスティーブは、いつもじっくりと考え込み、
サンゾウ役のラシャンはわひゃわひゃと笑い、レイコ役のメレディスは、大きな目をじっと開いて、笑ったり集中したりしています。

なんだか、今の所は、ナイスな三角形です。

2007年05月11日

3日目。

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ブログなので、写真があった方がいいだろうと思って撮りました。
稽古場の机の上に置いたイギリス版の台本です。

なんと、今日は、台本分析が最後まで行ってしまいました。
信じられません。動き出して、なにか問題が出てくるんでしょうか?

みんな、『トランス』のあいまいさや迷宮性を楽しんでくれています。
なんだか、わくわくしてきます。

2007年05月12日

ロンドンバス

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写真が好評のようで、「もっとロンドンらしい写真を送ってください」と言われたので、これぞロンドン!、曇り空にダブルデッカー(二階建てバス)の後ろ姿です!

鴻上は、フラット(これはイギリス英語、アメリカ英語だとアパートメントですな)を二カ月ほど借りていて、んで、なんと稽古場まで、毎日、バスで通っているのです!
二階建てのバスならいいなあと思っていたのですが、おいらの利用する路線は、残念ながら二階のない平屋建て(?)のバスでした。

ケイコは、10時半から始まるので、9時過ぎにバスに乗って、40分ほどゆれてケイコ場に通っています。なんだか、ちょっと楽しいです。東京と違って、たいてい、座れるので、ロンドンの街並みを見ながら、毎日、揺られています。


今日は、一週目のケイコ、最終日。あっと言う間に、第一週が終わりました。今の所は、ウソみたいに順調です。
来週からは、さっそく、立ち稽古に入ります。どんなことになるやら。

この土曜日は、僕の『ロンドン・デイズ』や『ドンキホーテのロンドン』を読んでくれた人なら知っている、ギルドホール時代の同級生、あのレイモンドと会ってこようと思ってます。二人で食事して、なんか芝居を見るつもりです。
レイモンドの許可がおりたら、写真をアップしようと思います。

とにかく、一日が終わりました。個人的に祝福しようと思って、日本食料品店で、サッポロ一番とミニ弁当を買って食べました。少し、幸福でした。

2007年05月15日

窓から見えるものは

そんなわけで、第二週が始まりました。

先週の土曜は、レイモンドと『THE LIVES OF OTHER』というドイツ映画を見てきました。これがなかなかの傑作でした。東ドイツ時代、ある作家をずっと盗聴していた秘密警察の男が主人公の話です。ベルリン解放のあと、彼の淋しさや虚しさも描写されていて、レイモンドと二人、ものすごく感動しました。

で、レイモンドの写真を撮ろうと思ったのですが、携帯を忘れてしまったので、来週の土曜に撮ります。(来週の土曜も、会う約束をしたので)。今回、出演者には、ギルドホール時代の同級生はいません。レイモンドにも説明しましたが、イメージに会うクラスメイトがいなかったのです。ただ、スティーブという名のクラスメイトは、マサのイメージに近かったのですが、彼とスケジュールが合わなかったのです。


で、第二週のケイコは、ゲームから始まりました。イギリス人相手に、「竹の子にょっき、にょっききっー!」からスタートしました。もちろん、竹の子ではなく「バンブーシュート」です。このゲームは、05年のエルダーバージョンの『トランス』の時に、松本紀保さんが提案して異様に盛り上がったゲームでした。(もちろん、テレビで有名になったゲームです)んで、僕もものすごく気に入って、何度も遊びました。んで、それを、イギリス人相手にやっているのです。国境を超えて、同じゲームで盛り上がるのは、なんだか素敵で、ワクワクします。

で、今日の写真は、僕の借りているフラットの窓から見た風景です。

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ケイコ場に携帯を持っていくのを忘れたので、家に帰ってから撮りました。
向こうに見えるは、じつは、小学校です。
ロンドンのわりと中心地なのに、緑が多いのがうらやましい所です。

2007年05月16日

くだものは安いのね

ケイコも、二週間目の二日目。さすがに、一日、8時間、ずっと英語を聞いて、話そうとしていると疲れますわ。英語で、ニュアンスを伝えるのが大変なのね。

昨日は、ケイコ帰りに、息が白いことを発見。まだ寒いのね。
ロンドンは、あなどれません。でも、まあ、5月のロンドンはまだなんとかなりますね。

で、6月のロンドンはいいですよ。公園の花が一斉に咲きますから。
なんか、じっと待っててよかったと心底思える瞬間です。

今回のトランスが、5月ケイコ、6月本番でほっとしてます。もしこれが、1月ケイコの2月本番だったりしたら、きっと、僕は悲しくて悲しくて、どうにかなっていたでしょう。

今日は、三日ぶりに、1時間ほど青空が見えました。ケイコ帰りに、バスを待つ間に、しばし、見上げました。それだけで、なんだか幸福な気持ちになります。

青空を見つめていると、自分には帰る場所があるような気がする、とは、 谷川俊太郎さんの詩の一節です。僕の大好きな詩です。

てなわけで、物価が、じつは、東京の二倍から三倍高い(!びっくりです。そんな時代になりました)ロンドンですが、野菜とくだものは安いのね。こういうお店が一杯あって、これまた、並んでいる果物を見ていると、幸せな気持ちになります。

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2007年05月17日

お茶場ですわ

そんなわけで、第二週目の三日目が終わりました。
ケイコの始めに、ゲームをすることを提案したのですが、昨日、二日目は、レイコ役のメレディスの番でした。メレディスは、なんと家からボールを持ってきて、「輪になってバレーボール。んで、何回、続くかがんばりましょうゲーム」を提案しました。これなんか、いろんな時に、僕がやっているゲームです。

さっそく、始めました。舞台監督助手のマリアとか演出補(今回、英語的な問題を解決するために、演出助手ではなく演出補という名前で、演出家のサラにお願いしています)など、キャスト以外のスタッフも、同時にゲームに参加するようになっています。

んで、このサラが、生まれてから一度もバレーボールをしていないような手つきで、いつも、ボールが来るとアタックするのです。で、サラにボールがいくと、続きません。でも、あんまりおかしいので、今日もやりました。

サラは、心優しい、傷つきやすい女性なので、今日は、「私、バレーボールはいいわ」なんて言いながら辞退するので「やろうよ!サラ!」とみんなで引き込みましだ。んで、ボールが来ると、下からレシーブしないで、アタックするのです。大笑いですが、不思議です。

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さて、今回の写真は、イギリスの稽古場のお茶場です。
お茶場というのは、ケイコ場の片隅にある、紅茶やお菓子を食べるために用意した場所のことです。たぶん、業界関係だけが興味深々の写真だと思います。

よく見ると、下の段に、キットカットだのビスケットだのがあります。日本だと、「酢昆布」とか「スルメ」とかのローカロリーのものが用意できるのですが、イギリスだとチョコレートだのクッキーだのバナナだの、カロリーしっかりというのもだけが並ぶってのが、一番の違いですね。これは太ります。

2007年05月18日

今日も今日とて

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今日も今日とて、さくさくとケイコは進んでいます。今回の写真は、レイコ役のメレディスが用意したボールです。
他にもっと、まともな写真はないのか?ロンドンらしい写真は出てこないのか?ロンドン塔だとかビッグベンの写真はないのか?と、あなたは言うかもしれせまんが、なにせ、ほら、毎日、10時半から6時まで、ずっとケイコして、英語で脳がヘロヘロになりながらフラットにたどり着くので、なんか、観光地らしい写真を撮るヒマもないのですよ。

今日も今日とて、バレーボールをやり、これまた演出補のサラは、レシーブをしないで、サンゾウ役のラシャンにアタックしてました。

三人とも、じつにイメージにピッタリなんですが、特に、ラシャンは、本当にサンゾウらしく見えます。あったかくて、大きくて、優しくて、業が深いサンゾウです。

んで、これまた、レイコ役のメレディスも、まさにレイコに見えます。真剣でお茶目で弱くて強いレイコです。んで、これまた、マサ役のスティーブも、マサにぴったりに見えるのです。繊細で頑固でインテリでシニカルなマサです。

なんのことはない、つまりは、本当に役にぴったりの三人に集まってもらうことができたのです。これは、本当に幸福なことです。

2007年05月19日

俳優を紹介します

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俳優の写真は撮らないのですか?という素朴な疑問の声に答えて、「いや、でも、みんな権利関係にうるさいんじゃないかな?」なんて思いながら、「撮ってもいい?」と聞いたら、二つ返事で「オッケー!」が返ってきました。
考えてみれば、彼ら彼女らは、ケイコ場に一人で来るし、マネージャーが現場に現れたこともありません。(ま、こっちのエージェントはそんなことしないのね)

で、一番右がラシャン。サンゾウ役です。実際は、185㎝以上あります。大きいです。隣が、マサ役のスティーブ。で、その隣、顔が異様にでかいのが僕。んで、その肩にアゴを載せているのが、レイコ役のメレディスです。

三人は、とにかく真面目なのですよ。ケイコは、10時半からなんですが、10時に僕はケイコ場にいくことにしているんですが、行くと、もう三人は、ジャージに着替えて、読み合わせをしているのです。
昼食は、僕に取材が入ってない限り、みんなで一緒に行くのですが、昨日は、イタリア料理を食べたあと、「じゃあ、僕たちは読み合わせをするから、先にケイコ場にもどるね」なんてことを、この三人は言うのです。

なんか、ものすごく真面目です。ケイコを、「トランスは三人芝居で集中するのが大変だから」と、1時から6時までのケイコにしようとしたら、「いや、もっとケイコしようよ」と短縮するのを止められました。なんだか、夢を見ているようです。

2007年05月21日

青空だけで生きていける気がする

二週目の最終日、土曜は、朝からほぼ三週間ぶりに晴れました。
もう、ケイコ場は、それだけで幸福な気分に満ち満ちていました。
なおかつ、今週は、みんながんばったので、土曜を半日ケイコに(10時半から1時半)にしたので、みんな、これまた、幸福でした。

一週間の立ち稽古で、一幕の終わり、(トランスを知っている人は分かると思いますが、本来、トランスには、休憩はありません。が、こっちのプロデューサーと話して、ここはやっぱり、イギリス式に休憩を入れることにしたのです。で、それが屋上のシーンの直前、雅人がいなくなった所です)まで、約60ページがさくさくと進みました。

1時半にケイコを終えて、一度、みんなと入ったイタリア食堂(レストランと呼ぶには、あまりに汚くて安いのに、これまた、ものすごくおいしいお店)に一人で入って、エビ・ホウレンソウスパゲティーを食べてたら、マサ役のスティーブも入ってきました。
やはり、ケイコ場周辺で一番おいしい場所はここなんだなと、お互い、共通に思っていたのです。

スティーブは、アイルランド人です。ラダという英国王立演劇学校を出ましたが、(僕が留学したギルドホールとはライバルになります。ラダが東大でギルドホールが早稲田とか慶応って感じです)アイルランドでは、ラダに入学する前から、プロの演劇人で有名人です。アイルランド人でスティーブのことを知らない人はいないそうです。

じつは、レイコ役のメレディスも、ラダ出身ですがカナダ人です。サンゾウ役のラシャンは、やはりイギリスの演劇学校を出ていますが、アメリカ人です。

みんな、異邦人の僕に優しく、僕の演出を必死で聞いてくれようとするのは、どこか、同じ異邦人感覚があるからなのかもしれません。
スティーブもメレディスもラシャンも、みんな、一度は、英国式標準英語発音(RPといいます)に苦しんだはずですからね。(RPがなにかなんてのは、『ロンドン・デイズ』(鴻上著 小学館刊)なんかを読んでもらえると、分かります)

もちろん、三人とも、イギリス生まれではないけれど、イギリスの演劇界でしっかりと根を下ろし、シェイクスピア演劇も含めて、ちゃんと活躍しているのです。

食事のあと、あんまりいい天気なので、リージェント・パークに行きました。ロンドンの有名な公園ですね。
行ったら、曇ってしまったので、残念ながら青空の写真の代わりに、公園の鳥たちです。

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レイモンドとは、彼に急用が入って会えませんでした。しょうがないので、一人で、レスタースクエアーという劇場街の真ん中に行って、ハンバーガーを食って、帰りました。なんだか、学生時代に戻ったようでした。

2007年05月22日

これでどうだのピカデリー・サーカス

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これぞ、ロンドンの観光地の中の観光地、ピカデリー・サーカスのど真ん中にある銅像の写真です。
日曜日、あんまりいい天気だったので、リージェントパークで英語の勉強と台本の予習をして、それから、ピカデリー・サーカス に行きました。ここは、僕の大好きなレスター・スクエアーから徒歩5分ぐらいの所です。じっさいには、何もありません。銀座のど真ん中みたいなもんです。お店をぶらぶら見るしかないのです。

でも、近くのレスター・スクエアーは、劇場街のど真ん中にあって、ブロードウェイと同じで、当日の芝居のチケットが半額で売っている「チケッツ」があります。今は、ここに並ぶ余裕がないですが、時間がある時は、この掲示板を見て、んで、半額でチケットをよく買っていました。

んで、今日は、三週目の初日でした。こんなにサクサク進んでいいのかと思うぐらい進みます。
あ、イギリスの俳優と日本の俳優の違いをよく聞かれるのですが、じつは、そんなに違ってないと思っています。ただ、一番の違いは、女性でも、平気でケイコ場で隠れないで着替えることですね。

今まで、僕はイギリスで何度も、この現場を目撃して、びっくりしています。今回は、メレディスも、平気でジーバンを脱いで、ささっとジャージに着替えます。トイレに行ったりしません。なんだか、当然のように、ジャージに着替えます。あんまり当然な感じなので、却って、男気を感じて、さばさばします。

ケイコ開始の時、僕もささっとジーパンを脱いで、ジャージに着替えます。んで、メレディスも楽しそうに会話しながら、ジャージに着替えます。なんだか、当然なので、戸惑っている方がおかしい感じがして、お互い、平気でケイコ場で着替えます。

なんなんでしょうね?

2007年05月23日

君たち、職人さん?

ケイコ場に行ったら、スティーブとラシャンが、にこにこしながらニッカボッカに着替えていました。職人さんの履くズボンです。

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「どうしたんだ、いったい!」

叫んだら、スティーブが嬉しそうに、日本に行った時に買ったんだよと自慢しました。スティーブは、アイルランドの友達に会うために、一週間だけ日本に観光旅行に来たことがあるのです。東京5日、京都2日という強行軍でしたが、楽しかったそうです。

んで、その時に、この職人ズボンを買ったのです。

「いやあ、動きやすくて丈夫でかっこよくて、クールだろ」とスティーブは笑います。
んで、もうひとつ買ったのは、大きすぎてあわなかったので、これを機会にラシャンにあげたそうです。かくして、今日は、目の前にイギリスの職人さんが現れ、職人とずっとケイコすることになりました。

僕の司会しているNHKのクールジャパンでも、じつは、この職人ズボンが海外で人気だと取り上げたのですが、まさか、こんな所で出会うとは思いませんでした。
値段も2600円ぐらいで、イギリスの物価でいうと、11ポンドぐらい、つまり、1100円ぐらいの実感ですから、メレディスも「安いわねえ。丈夫そうよねえ。かっこいいわねえ」と感心していました。

さて、今日は、いよいよ、クライマックス、トランスの後半、マサがレイコを「君は自分を医者と思っているだけなんだ」と追い詰めるシーンをケイコしました。トランスの中でもっとも、難しいシーンです。

ステーブは、ニッカボッカをはきながら、ふうふう言ってケイコしていました。なんだか、不思議な光景でした。

2007年05月24日

バスでい

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ふと思いついて、通勤のバスの中を撮ってみました。

空いてます。ほとんど、毎回、座れます。もちろん、正しい時間にはきません。

というか、時刻表が、具体的な時間ではなく、「8分~12分間隔」と表記されています。冬だと、たぶん、頭にきますが、だんだんといい陽気になってきたので、穏やかな気持ちで待てます。

なおかつ、ロンドンのあなどれない所は、何気ない通勤路に、二枚目の写真のような教会がほっこり現れる所です。
やっぱ、石の強さですかねえ。僕たちの木の文化ではなく、石の文化だということを実感する瞬間です。いったい、お前は何気ない顔で、普通に街の真ん中で、何百年建っているんだと、突っ込みたくなる瞬間です。

さて、今日は、立ち稽古の一回目が、なんと最後までいきました。
「このセリフを言っている俺は誰だ?」とステーブが混乱した顔で言うので、「うん、いい質問だね」といいながら説明しました。
ま、日本人にも難しい部分の説明なので、イギリスではもちろん難しいだろうと予想していたので、そんなに混乱しませんでした。
日本ではしたこともないような、論理的な説明をしました。彼らは納得すると「あー、メイクセンス!」と嬉しそうな顔をします。

明日、セットを見に行く予定が、工場から「ごめん、まだできてないや」という連絡が入りました。
「できるのは、来週の火曜だね」と、日本人なら「なんで、明後日じゃないんだ!なんで、木曜がダメで、いきなり火曜になるんだ!」と叫ぶ所ですが、イギリス人は叫びません。

この工場、今回、真っ白のキューブ(立方体のボックス)を小道具で使うのですが、納入予定日に、4個しか来ません。注文は5個でした。確かめると、「ごめん。1個、作るの忘れた」と平気で言いました。で、当然の顔で、「あと、4日待ってね」というので、日本人なら、「箱1個作るのに、なんで、4日もかかるんだあ!徹夜したら1日だろう!」と叫ぶ所ですが、イギリス人は叫びません。

僕もだんだんと慣れてきました。

2007年05月25日

英語は続くよ、どこまでも!

今日は、装置をチェックに行くのが中止になったので、また、いつものケイコでした。

んで、イギリス版では、『トランス』を知っている人なら分かりますが、最後の詩のようなものを、ドラマターグ(イギリスの文化を考えたドラマのアドバイザー)のトニーが、強く、「これは、古い芝居のイメージになるから、カットした方がいい」と言うので、カットしたのですがーー(シェイクスピアの時代には、こういう’後口上’がよくあったのです)

俳優たちに、最後の詩を参考までにと先週紹介していたのですが、今日、最後のシーンのケイコになったときに、「いや、絶対に最後の詩はあった方がいいよ」とスティーブが言い出し、メレディスが、「私、初めて聞いた時には、泣きそうになったのよ」と参加し、ラシャンが、「ちっとも古くないよ。今の時代にこういうことを最後に言うのは、ものすごく斬新だよ」と話し始めました。

「えっ!?そうなの!?」と驚きながら、アタック専門の演出補のサラを見ると、サラは、涙目で詩を読んでいます。そうかあ、どうしようかあと、話は2時間ほど続き、なんのことはない、最後の詩をやっぱり読むことになりました。

ケイコすればするほど、じつは、日本版のオリジナルの翻訳に近づいています。
なんだか、不思議な気分です。

俳優たちは、ケイコでセリフの気持ちが分からなくなると、「ショウジ、日本語版を直接、訳してくれ」といいます。んで、僕がその場でつたない英語で訳すと、「ああ、それなら分かる」とまた、「メイクセンス」を連発するのです。

しかし、しゃべることはできても、リスニングはいまだに不得手です。しゃべれるけど、聞けない。受験英語の典型的な症状です。受験が終わって20年以上たっているのに、まだ、同じレベルなのが悲しくって。

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写真は、バス停とフラットの近くで見つけたふとん屋さんです。
フトンももう立派な英語なんですね。
今日も、写真のように青空で、幸福でした。

しかし、木曜ぐらいが、まず、英語疲れのピークですね。

2007年05月26日

ケイコは続く

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何かを撮る時間がなかったので、ケイコ場の自分を撮りました。8時間、ケイコして、英語のシャワーを浴びすぎて、演出席で放心している姿です。

いつも、ケイコの最初にゲームをしているのですが、んで、それは、全員の持ち回りなのですが、今日はラシャンの番でした。

ラシャンは、「ウインクマーダー」を提案しました。知ってる人は知っている有名なシアター・ゲームです。殺人鬼が一人、全員の中に混じって、ウィンクで一人づつ他に人にバレないように殺していくゲームです。

「じゃあ、鬼を決めよう」と演出補のサラが、紙を切って、全員で他の人に分からないように取りました。すぐに始めて、ケイコ場を歩き回ったのですが、誰も死にません。3分ほど、ぐるぐるとケイコ場を回っていると、突然、スティーブが真面目な顔をして、「聞きたいんだけど、今、引いた紙に、なにか書いていたら殺人鬼なんだろうか?それとも、白紙のままでなにも書いていなければ殺人鬼なんだろうか?」と言い出しました。

全員、おもわず、唖然として、「そりゃあ、なんかの印があったら犯人だろう。全部に印をつけて、一枚だけ白紙にして残して、それが犯人ってのはどう考えても不自然だろう」と口々に言いました。

当然ですね。どこの国でも白紙を当たりにはしませんわな。引いた紙になにかの印があったら、それが’当たり’だと思うのはグローバルスタンダードのはずです。

んで、みんな口々に、「印があるのが、犯人に決まってるだろう!」と叫びました。スティーブは、「いや、僕の引いた紙には、×印が書いてあったんだけど、犯人は、M って書いているんじゃないかと思ったんだよねえ」(殺人鬼、マーダラーのM ですね)と恥ずかしそうに言っていました。

スティーブは、大ボケかもしれない。

昨日、最後のシーンまでケイコできたので、今日、頭から二周目のケイコが始まりました。これまたトランスを知っている人なら、三人がマサのマンションで再会するシーンがあるのですが、ここでは、日本の初演では、夕暮れ(ブールハーツ)がかかります。んで、イギリス版では、音響のジャックが教えてくれたアメリカのインディーズバンドの曲を選びました。

ジャックが何曲か、芝居の内容と関係がある歌詞で、かっこいいロックを教えてくれました。
その中から選んだのです。
素敵なシーンになりました。

2007年05月28日

レイモンドを紹介します

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僕の書いた『ロンドン・デイズ』と『ドンキーホテのロンドン』を読んだ人なら、レイモンドの名前は忘れられないと思います。
僕がギルドホール演劇学校時代に、一番の親友になった男です。心優しきオタクです。彼のロッカーのドアの裏には、おねーちゃんの写真ではなく、ベケット(ゴドーを待ちながらの作者)の写真が貼られていました。しぶすぎます。イギリスの片田舎の出身で、友達が牛だと言っていました。

俳優になることに悩み、弱い者をいじめたサッチャー元首相を憎み、アルコールに逃げていく故郷の同級生を心配し、映画を見続ける、誠実な男です。

レイモンドも、もう、29歳(たぶん)です。正確に聞くのを忘れました。土曜日に、二人で、「ディス・イズ・イングランド」という映画をみてきました。なんだか、週末は、レイモンドといます。デートしてるみたいです。映画は、イギリスの田舎の少年が、どんどん、国粋主義政党の人間に惹かれていく話です。80年代が舞台なのですが、その当時にはやったロックがガンガン流れています。深刻で面白い映画でした。

「ロンドン・デイズ」のレイモンドからは、ずいぶん、大人になりました。レイモンドは、映画「ラッキー・ブレイク」と「コックアンドブルストーリー」でじっくりみれます。「ラッキー・ブレイク」は、フルモンティーを撮った監督の次の作品でした。間違いなく、日本でDVDになっています。コックアンドブルストーリーは、去年の作品なんですが、僕はまだ見ていなく、日本でDVDになっているかどうかも分かりません。

ロンドンでレイモンドがいきつけの喫茶店で撮りました。


あ、「トランス」出演者の三人のインタビューが日本語のサイトに載っています。よろしければ、どうぞ。

UK Adapta Internet Magazine

2007年05月29日

ケイコ休み

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28日月曜は、イギリスの祝日(バンク・ホリデーと、英語では言います。米語だと、もちろん、ナショナル・ホリデーです。なんで、バンク・ホリデーかというと、どうも、銀行が休みなるからだそうです。変なの)だったので、ケイコも休みです。

え、祝日だとケイコは休みなの!?と驚いていたら、プロデューサーが、「休日にケイコをすると、俳優にもスタッフにも稽古場にも、「休日特別手当て」を出さないといけないんですよ」と説明してくれました。
なるほど。日本だと、正月だろうと子供の日だろうとお盆だろうと、勝手にケイコしてますが、イギリスはダメなんですね。

先週の日曜は、素晴らしい青空で、公園に行って、生きていることを喜びましたが、昨日・今日と、続けて雨。息が白くなる寒さに逆戻りです。
ここらへんが、ロンドンのロンドンたるゆえんです。しかしねえ、5月の終わりに、息が白くなって、冷たい雨に打たれていると、なんだか、「なんでおれはここにいるんだあああああ!!!!!」という気持ちになってきますね。

ケイコは、イギリスの俳優組合の規定で、2時間やったら、必ず、15分の休憩。食事は、必ず、1時間。4時間やったら、必ず、1時間の休憩。が、決まっています。

といって、まあ、日本でも、それぐらいはちょこちょこ休んでいます。
特に、トランスはたった3人が集中してやるので、ちゃんと休憩を取らないと、やっていけないのです。

あ、そうそう。土曜日。いつものように10時にいくと、俳優が誰もいません。10時29分まで待っても誰も来ないので、「こ、これは何かあったか!?」と一瞬、焦ったら、10時30分に3人がバタバタと走ってきて、「いやあ、喫茶店で読み合わせしてたんだ。ショウジ、今日は練習がないって焦った?」とラシャンが笑いながら言いました。

……君たちは、ものすごく真面目だ。

2007年05月30日

みんな大変なのよ

日曜と月曜、連休あけのケイコ場。

ラシャンに、「休めた?」と聞くと、「いやあ、二日間、ずっと熱にうなされてて、ずっと苦しんでたんだよ」と返事。さらに「メレディスもだよ。彼女、ずっと二日間、吐いてたって」と衝撃的発言。
なおかつ、演出補のアタック・サラも、風邪でようやく3時過ぎに出勤。顔が青白い。
メレディスは、ケイコが苦しそう。「50パーセントの力でいいからね。100パーセント出さなくていいから」と繰り返しました。

『トランス』は、ものすごい集中力が要求されるので、みんな、じつは疲れ切っていたのかと、なんだか、申し訳ない気持ちになりました。

日曜と月曜、ロンドンは、ものすごく寒くて、息が白くなりました。弱っていると、やっぱり、みんな人間だから風邪も引くよなあと、しみじみ思いました。

ちょっと悲しい顔をしていると、スティーブが、にこにこしながらやってきて、「ショウジ、俺は元気だ。ものすごく元気だ」と笑いました。

そうそう、取材の記事は、見てくれましたか?メレディスは、ものすごく色っぽく、映ってますね。じっさい、ものすごく、魅力的な女性です。

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写真は、街で見かけた日本シリーズ第2弾。美容院のショウウィンドウにいた招き猫です。腕が、電動でいつも動いています。

もうひとつは、レイモンドと、SOHOというおしゃれなゲイタウンを歩いている時にみつけた「ドードー」という名のお店。『ファントム・ペイン』を見てくれた人なら、僕が「ドードー」という絶滅した鳥が大好きなことを知ってくれていると思います。
素敵な店名だなあと、撮りました。

明日は、いよいよ、最初の通しです。どんなことになるのやら。
楽しみだったり、心配だったり。

2007年05月31日

一回目の通し

一回目の通しが終わりました。英語では、一回目の通しを、特別に、stagger と呼びます。(って、今回、初めて知ったんですけどね)スタガーって、よろめくとかふらつくっていう意味で、どうして、みんな、急にふらついているのかと思ったら、一回目の通しのことでした。

一回目は、よろめきながら、ふらつきながら、なんとか通すってことなんですね。
あ、ちなみに、「通し」ってのは、今まで、バラバラにケイコしてきたことを、初めから終わりまで、一応、通してやってみる、なんてことです。スタガーに対応する日本語としては、「あら通し」って言葉があります。

と言いながら、以前、「荒通し」なのか「粗通し」なのか、議論が分かれたことがありました。「あら」の字にどちらをあてるか、分かれたのです。「かつぜつ(アーティキュレイション)」も、「活舌」なのか「滑舌」なのか議論は分かれています。ご存じの方がいらしたら、(歴史的にどちらが正しいのか)ぜひ、サードステージの事務所まで教えてください。

てなことで、なんとかスタガーをやりました。後半は、みんな、台本をもってやりました。しかし、プレビューまで、あと一週間なのです。大丈夫なのかなあ?とさすがに心配になっていたら、プロデューサーから、「イギリスの俳優は、論理的に納得したら、覚えるのは早いですよ。でも、論理的に納得できなければ、なかなか覚えられないんです。こっちは、小学校から、丸暗記の習慣がないですから。とにかく、理屈で納得しないと覚えないんです」と言われました。

つうことは、『トランス』は、納得できないセリフが多いってことなのよね。つまり、イメージでジャンプしたり、論理が飛躍したりして成立している部分がたくさんありますから。

うむむ。申し訳ない。
今日は、メレディスは、目にクマができていました。必死で覚えているのね。

今日の写真は、街でみかけた招き猫シリーズ第2弾。(いつのまに、そんなシリーズが)
西日を浴びて、元気に腕を振っていました。骨董品屋さんでしたから、招き猫自体は、あって当然のお店でした。はい。
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