2006.03.13 |
今春、「ビューティフル・サンデイ(中谷まゆみ 作)」が韓国の漢陽レパートリーという劇団で上演されることになりました。 現地で直接伺ってきたことなどを、以下レポートいたします。 漢陽(ハニャン)レパートリーは、1992年に漢陽大学のチェ・ヒョンイン教授(演出家・女優)の主宰で、演劇映画学科の卒業生を中心に作られた劇団です。国内外の作品を選んでレパートリーとして上演するという方針で、ソウル・大学路(テハンノ)にある専用の劇場を活動拠点としています。上演した主な海外作品には、ステファン・ベルバー『テープ』、ピーター・シェーファー『レティスとラベッジ』、サム・シェパード『トゥルーウエスト』、ニール・サイモン『二番街の囚人』などがあり、※ソル・ギョング、ユ・オソン、クォン・ヘヒョ、イ・ムンシクなど、舞台だけでなく映画界でも活躍する俳優を輩出しています。 今回の『ビューティフル・サンデイ』は、韓国語での上演です。翻訳監修と制作協力を務めるソウル女子大学校の加藤敦子先生は、歌舞伎・文楽を専攻としている関係で韓国の演劇関係者と親しく、今回の上演に至ったのは戯曲の紹介者で、仲介者でもある加藤さんの熱意の賜物です。加藤さんは歴史意識に絡めとられない、日本のカジュアルな空気を伝える作品を探して『ビューティフル・サンデイ』に行き着いたということです。 「ソウル・大学路は小劇場が林立して、毎日さまざまな芝居が上演されている本当に面白い所です。そこで『ビューティフル・サンデイ』が上演されることは、いろいろな意味で意義あることと思います。」と加藤さんは言います。大学路がどんな場所なのか、こちらは不勉強で何も知りません。上演のご相談をいただいたのが昨年11月でした。実際に伺ってみねばと思いつつも、こちらも新作(「ラブハンドル」)の稽古が始まることもあり、バタバタとして、年末にやっと彼女に大学路を案内してもらうことができたのでした。 今の大学路は、1975年にソウル大学が市の南部に移り、その跡地が整備されて出来上がりました。名前の由来であるメインストリートは南北に走り、カフェや劇場、ギャラリーなどが集中していて、若者文化の発信源として人気のあるエリアです。通りのあちこちに小劇場やライブハウスの告知が貼ってあります。街の美化委員が定期的にそれらを剥がしても、雨後の筍の如く、すぐに別のポスターで埋め尽くされてしまうということです。最寄駅である地下鉄4号線恵化駅の近くには演劇専門の案内所があり、上演中のたくさんの公演のチラシが置いてあって、係りの人が内容の説明をしてくれます。案内所ではチケットの取り扱いは無く、観たいと思う公演があれば直接、劇場の入り口に並びます。大学路では前売り券でなく当日券での観劇が中心です。裏通りには至る所に小劇場があり、夕方になると、人気演目が上演されている小屋には長い行列ができています。 ここでは公演が当たればロングランして行くのが通常のシステムです。一昨年は、シェイクスピア『十二夜』の登場人物の性別を逆転させたコメディ『トランス十二夜』がヒット。大学路の小劇場を転々としながら1年近いロングランになったとのことです。「かなり早い時期に見て、爆笑に次ぐ爆笑の楽しい舞台が印象に残っていたのですが、半年後に偶然全く別の路地で、『トランス十二夜』を見るために行列を作っている人たちを見た時には、驚くと同時に感慨深いものがありました」と加藤さん。ご当地の気質についても話が及びました。「当たれば柔軟にロングランで小屋がけする。それは作っている人にとっても夢があるでしょうし、活気が出る理由だと思います。今、韓国は決して景気が良いわけではありませんし、学生たちも就職難なのですが、先の事を心配したり、細かいことを気にするよりも、自分たちがドキドキすること、ワクワクすることをまず優先して、実行してしまおうというようなタフでノンキな気風もあります」 近くにあるシネコンを見ると、6館入っているうちの5館が韓国映画で、1館だけ「ハリーポッター」をやっておりました。次回上映予定では「世界の中心で愛をさけぶ」韓国版の宣伝をしていました。映画は圧倒的に外国のものより国内製作のものの方が人気があるそうです。 目の前を軍服の若者が通り過ぎ、肩から何かを提げていたので、よく見るとそれはエレキギターのケースでした。「ご存知の通り徴兵制度があり、学生のうちに兵役を務める人が多いです。彼は軍隊の休暇中なんでしょうね」と、加藤さんに解説してもらいました。軍服を着ていると、お店やいろんな場所で優遇されたりするのだそうです。 漢陽レパートリーは、そんな場所にありました。 小さすぎず広すぎずイイかんじの劇場では、『ラヴ・レターズ』(A.R.ガーニー作)を上演していました。ふたりだけの朗読劇で、劇団の何組かの役者さんたちの組み合わせがあり、長期間にわたる公演です。(ソル・ギョングさんも出演されていたので、メディアでもかなり取り上げられ、話題になっていたようです。)その日は※チェ・ヒョンインさん出演の回で、言葉がまったくわからない自分でも心が動かされてしまう、すばらしい舞台でした。 終演後、カップルのお客さんたちを舞台上に上げて、セットの椅子に腰掛けた姿をポラロイド撮影してゆくという(恒例らしき)サービスが始まりました。ロビーに呼ばれると、チェ・ヒョンインさんが出てきて、お疲れの中、お話をしてくださいました。 「これまで日本の作品を上演した経験はないのですが、劇団の若者たちが中心となり、脚本を読んで、ぜひやってみたいと言ってます。よろしくお願いします」と通訳されました。 企画した劇団の方からは、地名・人名を韓国風に変える以外は、脚本に忠実にやりたいということを伺いました。そして登場人物3人はダブルキャストで計6人の出演者。それぞれ見た目には、まったく柄の違う俳優さんたちをご紹介いただきました。こちらからは、作者の中谷さんからのメッセージを伝えました。「台本はお好きなように、面白くしてくださって結構です。男でも女でもゲイでも、抱えている思いは同じ。たとえ国がちがっても、それは変わらないと思ってます。公演のご成功お祈りしています」 その後は、役者さんもスタッフの皆さんも、笑顔が絶えない人なつこさでした。厳寒のソウルでしたが、夜遅くまで熱くその取り組みについて、話してくださいました。 最後に、公演日程ですが年末のこの時点では、ナントもうすでに稽古を始めておられました。もの凄いフットワーク!公演は2006年3月に開幕して、とりあえずは5月下旬くらいまでの予定とのことですが、もちろん千秋楽の日にちは決まっていないそうです。(2005.Dec サードステージ 中島隆裕) ※ソル・ギョング・・・映画『ペパーミント・キャンディー』『シルミド』『オアシス』などに出演。最新作『力道山」は日本でも3月公開/クォン・ヘヒョ・・・『冬のソナタ』のキム次長役で日本のお茶の間でも知られる俳優/ユ・オソン・・・映画『友へ/チング』『チャンピオン』などに出演。/イ・ムンシク・・・映画「達磨よソウルへ行こう」などに出演。 ※演技指導者としてのチェ・ヒョンインさんは、劇団以外でもイ・ヨンエ、イ・ジョンジェ、キム・ヒョジン、チャン・ドンゴン、イ・ジョンジェ、チェ・ジウほか数多くのスター俳優を手がけている。『彼女の演劇と演技、演出に対する情熱を一人の観客として離れた所から感じて、記者として彼女について取材をしながら、なぜ数多くのスターたちが彼女に演技指導を受けるために駆けつけるのか理解することができた。演技に、演劇に、すべてのことを賭けているからなのだろう。(マイデイリー2005年7月24日「演技は誰でもできるものではない」より) ラブハンドル 中谷まゆみ 板垣恭一 |