劇場。
いつものように区切られた二つの空間。
舞台にも客席(ヒナ段)がおいてある。
観客の入場が始まる。
と、同時に、舞台上の客席にも、役(割を与えられた)者の入場が始まる。
彼ら、彼女らは、階段上の暗闇から現われ、観客が自分の席を捜すように、階段のそこかしこに坐る。
登場する役・者は、観客の数に比例してだんだんふえていく。
遅れてくる観客、もしくはどこに坐ったらいいか分からず、うろうろしている観客は、進行役と狂言回しが、
「こちら、あいております」
「どうぞ、前の方からおつめ下さい」
などと言いながら誘導している。
観客が入り終わったころ、役・者も階段に坐り終る。
役・者は、階段の上から、これから何が起こるのだろうと、期待に満ちた眼で客席を眺める。ひそかな笑みと共に。
しばしの沈黙。
が、もちろん、何も始まりはしない。
見つめられた観客が、奇妙な沈黙とバツの悪さに耐えられなくなりかけた瞬間、進行役が口火を切る。