鴻上尚史
このニ、三日あたたかい日々がつづいております。みなさま、いかがお過ごしでしょうか。
「第三舞台」もみなさまのご支援のおかげで、今年の春も公演をうつことができることとあいなりました。
劇団員一同心より御礼申し上げます。
さて、今回の公演は、大隈講堂前を、「不法」に占拠した公演でありまして、すこぶるいけない公演であります。
まして、私達第三舞台は、芝居の中で、民青はバカにするわ、革マルはコケにするわ、原理・右翼につばをひっかけるわで、あちこちから白い目で見られております。当方が入手した情報によりますと、こういう劇団の内実を調べるために、「公安(ケーサツ)」の方が、観客にまぎれて、入場することのことです。なんという、けしからんことでしょう。
しかし、御安心下さい。彼らを見分ける方法がちゃんとあります。いかんせん、警官には文化がないので、見なれないものを見ると、体が拒否反応をおこします。そう、つまり、芝居の最中に、モゾモゾ動いたり、私語をしたり、まして立ち上がり、帰ろうとする人は、みんな「公安(ケーサツ)」です。みなさん!遠慮なく、その人の頭をぶったたいて下さい。いつの世にも、文化をつぶすのは、国家イコール制度なのですから。
さてさて、夜、テント管理のために、泊りでマージャンなどをしておりますと、酔っ払いのおたけびがせめよせてきます。十数人はいるかというそのダミ声は、つかのまのユートピアを生きるために、世の中すべてを理解したいと、切ない思いをあふれだします。その意味まみれの人間の目に、不可解な形をしたテントがとびこんでくるのです。
ここで、サルトルが好きな酔っぱらいはゲロを吐き、マルクスが好きな人は飲み屋の勘定を思い出し、多くの人民大衆は、理解できないものの存在を認めないために、なかまうちでイザコザをはじめます。そのざわめきを聞きながら、ふと心は私達の経験しようもない、あのバリケードにとびます。
つぶされることが分っているからこそ、守ろうとしたあのバリケード。そこで一瞬、生まれて消えた幻の空間で、人は一体どんな呼吸をしたのか?
バリケードには及ぶべくもありませんが、この小さなテントで、一瞬の幻を見ていただければこれほどの幸せはありません。せまいところですが、ごゆっくりごらん下さい。
(「プラスチックの白夜に踊れば」ごあいさつ)
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