プラスチックの白夜に踊れば

第3回公演1982.5.3~5.9 早大大隈講堂前特設テント

作・演出: 鴻上尚史

登場人物・出演

吉村道明: 大高洋夫
ナンシー久美: 岩谷真哉
オビワン・ケノビ/やーさん: 名越寿昭
JCIA/ラッシャー木村: 森下義貴
CIA/ハルク・ホーガン: 小須田康人
KGB/
イワン・スケベビッチ・
オナゴスキー:
安田雅弘
哀しみのサラリーマン: 伊藤正宏
過去のある女: 松永郁子
歌江: 長野里美
敏江: 深野高代
春江: 栗原和雅

主催 早稲田大学演劇研究会


    鴻上尚史

このニ、三日あたたかい日々がつづいております。みなさま、いかがお過ごしでしょうか。
「第三舞台」もみなさまのご支援のおかげで、今年の春も公演をうつことができることとあいなりました。
劇団員一同心より御礼申し上げます。

さて、今回の公演は、大隈講堂前を、「不法」に占拠した公演でありまして、すこぶるいけない公演であります。
まして、私達第三舞台は、芝居の中で、民青はバカにするわ、革マルはコケにするわ、原理・右翼につばをひっかけるわで、あちこちから白い目で見られております。当方が入手した情報によりますと、こういう劇団の内実を調べるために、「公安(ケーサツ)」の方が、観客にまぎれて、入場することのことです。なんという、けしからんことでしょう。

しかし、御安心下さい。彼らを見分ける方法がちゃんとあります。いかんせん、警官には文化がないので、見なれないものを見ると、体が拒否反応をおこします。そう、つまり、芝居の最中に、モゾモゾ動いたり、私語をしたり、まして立ち上がり、帰ろうとする人は、みんな「公安(ケーサツ)」です。みなさん!遠慮なく、その人の頭をぶったたいて下さい。いつの世にも、文化をつぶすのは、国家イコール制度なのですから。

さてさて、夜、テント管理のために、泊りでマージャンなどをしておりますと、酔っ払いのおたけびがせめよせてきます。十数人はいるかというそのダミ声は、つかのまのユートピアを生きるために、世の中すべてを理解したいと、切ない思いをあふれだします。その意味まみれの人間の目に、不可解な形をしたテントがとびこんでくるのです。

ここで、サルトルが好きな酔っぱらいはゲロを吐き、マルクスが好きな人は飲み屋の勘定を思い出し、多くの人民大衆は、理解できないものの存在を認めないために、なかまうちでイザコザをはじめます。そのざわめきを聞きながら、ふと心は私達の経験しようもない、あのバリケードにとびます。

つぶされることが分っているからこそ、守ろうとしたあのバリケード。そこで一瞬、生まれて消えた幻の空間で、人は一体どんな呼吸をしたのか?

バリケードには及ぶべくもありませんが、この小さなテントで、一瞬の幻を見ていただければこれほどの幸せはありません。せまいところですが、ごゆっくりごらん下さい。

(「プラスチックの白夜に踊れば」ごあいさつ)


『いつまで建てておくつもりなんだね』
『一週間後です』
鴻上がそういった瞬間、学生部長は、ゆっくりとうなづいた。そしてドアの方に向かって、おもむろに手を伸ばした。もう、立ちなさいという意味らしかった。許可するとも、許可しないとも言わないまま、もう立てという。これが噂に聞く、大人の腹芸というやつかと、鴻上は勝手に感動して、おじぎをして出て行った。
時に鴻上、23歳。青春真っただ中であった。

次の日、公演の初日。また守衛さん達は団体でやって来た。そして、テントの横に札を立てて行った。
『大学当局は、このような建築物を認めることはできない。ただちに撤去するよう要求する。早稲田大学』

これが、政治というものである。
次の日、その立て札の横に、また立て札が立った。

『劇団当局は、このような立て札を認めることはできない。ただちに撤去するよう要求する。第三舞台』

(「スワン・ソングが聴こえる場所」あとがき)

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