<口上>
夜、公園で男が女にキスをしようします。
女は男のホホを平手打ちして
「私、初めてのデートでキスするような人嫌いよ。」
男はすこし笑って
「・・・じゃあこれが最後のデートだ。」
いやあいい話です。じつに、いい話です。
次の話。
夫が家に帰ると、クリーニング屋が、彼の奥さんの前で、ズボンをおろしていました。クリーニング屋は彼に言いました。
「出ていけ、さもないと、ここでうんこをするぞ。」
夫は慌てて出てゆきました。
いやあいい話です。じつに、いい話です。
ほんに言葉は魔物。解釈は病気ですな。テレビなぞで、「出口」は近くないにしても必ずあるのだ、とささやかれると、迷宮に住む人間は、人生ってすてたもんじゃないと、思い違うようです。
その「出口」は迷宮の壁に書かれた文字にすぎないのに。
ただ最近は、その「出口」という文字のセンスが必要なようです。BGMもかかせません。その文字の前で醒めずに踊ること。これは醒めて踊ることより難しいのです。
ああ、管理されたカーニバル!!
さて、今回は電気羊であります。
電気羊とは何なのか。何をするのか。それはビクターの新しいマークなのか。いや、いや、そうじゃあない。それは誰にも分からない。
★正直な話、あまり素敵な物語など書きたくないと思っています。男と女が出てきて、恋愛ゲームをして伏線があり、どんでん返しがあって、みごとな人間関係のクロスワードパズルがラストにきちっとおさまる。そんな涙あり笑いあり感動ありのお話しは、実はあまり書きたくないのです。
では何が書きたいのかというと、なにがなんだか分からないけれど、見終わったら、涙がとめどなくあふれでたとか、頭が変になるくらい笑い狂ったとか、わけもなく切なくてたまらないとか、そんなどこか心の一番奥と、ストーリーを通じなくても直接握手するような、そんなものが書きたいのです。
(鴻上尚史「電気羊はカーニバルの口笛を吹く・ごあいさつ」)
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