ビー・ヒア・ナウ

第23回公演
1990.8.4~8.9 大阪・近鉄劇場 /1990.8.16~9.13 渋谷Bunkamuraシアターコクーン

作・演出: 鴻上尚史

登場人物:出演


北川俊太郎: 小須田康人
友部正和: 大高洋夫
女刑事1・並木享子: 長野里美
女刑事2・茜雲翼: 山下裕子
デスラー総統: 筧利夫
その部下・ぴゅう: 京晋佑
イザベル・ドロンジョ女王: 筒井真理子
お供のボヤッキー: 伊藤正宏
柄谷哲: 勝村政信
その秘書・ワンダ: 利根川祐子

 

例えば、部屋の片隅に打ち捨てれれている一つの人形があるとしよう。
あなたは、その人形と共に、ある時間を確実に過ごしたはずだ。
いや、ひょっとしたら、そんな時間を持つこともなくその人形は、部屋の片隅へと転がったのかもしれない。
もはや、あなたの意識には、その人形は存在しない。
そんなある昼下がり、あなたの友人があなたの家に遊びに来る。
ひとしきり遊んだ後、その友人は、部屋の片隅にある人形に目を止める。
そして、その人形が欲しいとあなたに迫る。
あなたは、その時、その人形に決して感じていなかったいとおしさに気づいて驚く。
友人の言葉によって、一瞬前まで、決して感じていなかった人形に対するいとおしさに震える。
その時、人形は蘇る。
いとおしさに溢れて、あなたの目の前に蘇る。
その人形を手放したくないと友人に告げる。

やがて、友人は去り、その瞬間、あなたの人形へのいとおしさは消える。
だが、それを悲しんではならない。
あなたが感じたいとおしさは真実なのだ。
それは、あなたが生きることで捨ててきたあなたの人生の真実に対応する。
僕達は、片隅に転がる人形のように、自分の人生を捨てながら生きていく。
何種類の人形を捨ててきたのかも忘れて、その人形と過ごした幸福な日々も忘れて、僕達は、生きていく。
だが、ある昼下がり、友人があなたを訪ねる。
そして、捨ててきた人生を欲しいと迫る。
その瞬間に感じるいとおしさ、それは、真実なのだ。
私は、
私は、あなたのそういう友人になりたい。


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